逆転の貴公子(2)

『確かに、敗北の中から光明を見出す事も大切な作業だと思う。けれども、それが勝利という結果に直結するものかどうかの見極めは難しい。勝ってみないと得られない事は、世の中にたくさんあると思う。敗者はとかく失敗を二度と繰り返さないような方法を考えがちだが、それは勝利への戦略を持たないゆえの安全策でしかない。勝つ為何をすべきか。勝者ならこう考えるが、敗北を繰り返せば繰り返すほど、組織も人間も器が小さくなる傾向がある。人間は勝たなければならない。勝利を目指さなければいけない。人は勝つ事によって更に成長できる。一度勝つ事によって、過去の敗北を取り返すくらいの哲学を得られる事もある。』

緘黙症児の小さな成功の積み重ねに通じる部分がありますね。逆に失敗を検証し過ぎて動けなくなったりします。やはり、どこかに開き直りが必要なんだと思います。

『その男ほど運動が出来ない男を、俺は過去に見た事がなかった。そんな男が毎日ジムにやって来る事が奇跡だった。生命に危険が及ぶボクシングを続けさせるのは無理と判断した。「お前は明日から一般練習生〈プロを目指さないコース)へ行け!」「いえ、プロになりたいので辞めません!何度も説得したのだが、首を縦に振らない。「まあ、アイツの力ではプロテストは受からないし、記念の意味も込めて、受験だけはさせてやろう。そうすれば、現実が判るだろう。」』

『そうこうするうちに3年の年月が経った。ボクサーらしくもなってきた。それでも受かるかどうかは微妙だと俺は思っていた。プロテストの翌日、俺は彼と一緒に後楽園ホールに結果を見に行った。合格していた。アイツは喜びの感情を全く出さず、じっと掲示板を眺めていた。帰りの電車の中で俺は悩んでいた。俺は会長としてアイツの試合を組まなければならない。重大な事故が起きる可能性がある。弱い相手を探す。それが会長として俺に与えられた試練だと考えるようにした。』

『その翌日。アイツはジムにやって来た。練習する為ではない。退会届を出す為だ。アイツの目を見てようやくハッと気付いた。プロテストに合格する為に厳しい練習に耐え抜いたのだ。それを達成する為に3年以上も痛い思いをしてきたのだ。やはり、アイツは自分に才能がない事を自分自身が一番知っていたのだ。アイツはプロテストに合格する事で心中にずっといこびり付いている負の感情を覆そうとしていたのかも知れない。彼が欲しかったのは達成感であり、自信だった。ジムを去る時のアイツの顔は晴れ晴れとしていた。』

色々、考えさせられる逸話ですね。彼はものすごい自信を持ったのではないでしょうか?人それぞれ目標が違って当たり前です。一心不乱に目標に向かって汗を流した事は財産になったに違いありません。彼の心の奥にあったものは何かは判りませんが、もうそれに揺り動かされる事はないでしょう。素晴らしい人生だと思います。

世界チャンピオンを目指している人に取っては単なる通過点に過ぎないプロテスト。でも、たかがプロテスト、されどプロテスト。気付いたら、強い男になっている。

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